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山田詠美の小説短編集。
「蝶々の纒足」
瞳美とえり子、幼馴染みの二人の関係を「女」という軸から
様々な角度で捉えたお話。
幼い独占欲や嫉妬心をほどいて、心も身体も少女から大人の女へと
成長していく過程が生々しく、そして切なく描かれています。
「風葬の教室」
家庭の都合で転校を繰り返し、学校ではなるべく
目立たない存在であろうとしていた主人公。
しかし些細な事からいじめの標的に。
その復讐は死の空想と、女の魅力を武器としたものだった。
女性の陰湿な逞しさが際立つお話。
「こぎつねこん」
愛情に包まれた幸福感の中から首をもたげる失う不安、死の恐怖。
誰もが経験した事のあるような不安の中に、
誤魔化しようもなくそっと身を沈める哀しみと、強さ。
この「蝶々の纏足 風葬の教室」は何年か前に
旦那おすすめで読んで以来、印象に残っている小説です。
何気なく読み返してみたので記事にしました。
小説って、すご~く自己主張が激しいと思う。
ひとりの人間の言葉だけで構成されているからだろうか…
個人の感性をどこまでも掘り下げた深いものである半面、
個人の思想だけで構成された狭い世界でもある。
対話はできないのに、ページをめくると途端に主張を始める心。
昔はそれを覗くという事に奇妙な感覚がしていたものです。
この「蝶々の纒足 風葬の教室」も、これほどリアルな心理描写に
著者の個性が強く表されているのだが、しかし。
ともすれば自分の主観の塊になってしまいそうなテーマを、
それと感じさせない巧みさで書き上げているように思う。
誤魔化しや都合の良い救いはなく、人間の心と身体の細部、
それを取り巻く世界の仕組みを、ありのままに観察しているように思います。
自分の感性を掘り下げつつ、そうした観察力で自らの作り上げる物語から
一歩引いた目線が加わっているがゆえに、そこに奥ゆきある世界が広がる。
物語の中に、人の心を見つめる静かで温かい視線が存在するようでした。
特に「こぎつねこん」で表現されている類の死の恐怖は
男女問わず共感する人が多いのではないでしょうか。
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